苦戦、善戦、世界選手権のBMW
■2月26日のこのコーナーでも、BMWファクトリーチームによるWEC=エンデュー世界選手権参戦の話題をお届けしましたが、さあ、ここまで全3大会6ラウンド(世界選手権は2日間競技ですが、1日ずつが独立したラウンドで年間8大会16ラウンドがカウントされます)を消化し、BMW G450Xの調子はどうなんでしょう。2009年のBMW G450Xチームは、KTMファクトリーチームからエース級のライダーを引き抜いて、ライダーのラインナップ、バックアップも万全の体制です。
結果から言うと、ここまで6ラウンド。BMWは、期待ほどの成績を出せていないというのが正直なところです。開幕のポルトガルGP、1週間後のスペインGPまでの4ラウンドでホディウムは遠く、先週のサルディニア島のイタリアGPでやっと、ユハ・サルミネンがポディウムを獲得。今のところ優勢なのは圧倒的にKTM、昨年初めてタイトルを獲得したフランスのモトクロス出身ライダー、ジョニー・オーベルのKTM450EXCR、そして最大排気量クラスのE3では、イヴァン・セルバンテスのKTM530EXCRが気を吐いて、E1では、ザナルドHONDAのミカ・アオラCRF250が、超音速の速さを見せています。
■BMW G450Xは、速度域の低いエクストリームテストでは、開幕の時点からまずまずのタイムを出していますが、速度域がぐっと高くなるクロステスト、エンデューロテストでは、思うようなタイムで走れていない。デビッド・ナイト、ユハ・サルミネン、ともにヨーロッパでは敵なし、そして遠征したアメリカのGNCCでもデビューシーズンからタイトルを重ねるほどのライダー。BMWでも勝って当然と見られていただけに、ストレスの多い序盤戦ということが言えるでしょう。さあ、ここから中盤戦に向け、BMWのエンデューロファクトリーチームはどこまで巻き返すことができるでしょうか。断片的な情報ですが、それを総合すると、どうもマシンの全体的なバランスの問題が、ドライバビリティをスポイルしているようです。速度域が高くなるほど、その問題が出てくるというのは、裏を返せば、速度域が低いテストでは、ライダーの技術がその欠点を補っているということにつながるのかもしれません。しかし、いずれもとても高い次元でのことです。日本でのコンペティションでは、すでに小池田猛のライディングで、エンデューロ、クロスカントリーで圧勝する活躍を見せています。ただし世界の頂点、WECのテストでは、わずかなドライバビリティの差、それが生み出すわずかなタイム差の積み重ねが、大きな壁となって立ちはだかっているということなのでしょう。
■BMW G450Xのファクトリーマシンは、昨年のモデルと比べても、各部に違いがあり、今年のチームライダーによる開発が大きく前進していることを物語ります。サスペンションはマルゾッキフォーク+オーリンスシングルから、前後ともホワイトパワーに変更。また、フレームも大きな補強メンバーが追加されたものが採用されています。噂では、さらに新しいフレームもテストされており、次のラウンドからでも投入されることになるかもしれません。
BMWといえども、そう簡単に世界の頂点を踏むことはできないのです。今シーズン、G450Xによるタイトル獲得の目は、ほぼ消えました。しかし、ユハかデビッドのどちらか、あるいは両方がボティウムの中央に立つことはまだ十分に考えられます。
ぼくは、なんだBMWファクトリーチームといっても大したことはないじゃないか、などとはこれっぽっちも思っていません。正直なところ、デビューウインもあり得ると思っていたので、驚いてはいます。ですが、これがモータースポーツの面白いところです。BMWのG450Xというマシンは、一見するとコンベンショナルなエンデューロマシンの姿を持っていますが、そこにはさまざまな革新的なデザインが盛り込まれています。既存のモーターサイクルが持つ構造的な矛盾を、BMWらしいアイディアによってファンダメンタルな次元で解決しようとしたマシン。そこには単なるコンペティションのためだけではない技術者の挑戦があります。
そのニューマシンが苦戦している。いや、エンスージアストなら、これを善戦していると見るでしょう。こうしたテクノロジーの挑戦は、モータースポーツならではのもの、醍醐味です。エンデューロ世界選手権は、BMWの参戦によってかつてないほどの盛り上がりを見せています。ファンは新しいチャレンジャーの登場を待っていたのです。
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