精神の旅を
1999年のTBI(ツールドブルーアイランド)に参加したことは、ぼくのモーターサイクル生活にとって、ひとつの転機だったと思います。四国という美しい島をラウンドトリップする7日間、2000kmの旅。「TBIはツーリングなのか、競技なのか」そうした議論を聞いたことがあり、それは確かにそうだ。どちらなのだろう、と思ったこともありましたが、実際にこれを体験してみれば、それが何の意味もない空回りの議論だったということに気がつきます。ツーリング(バイクを使った旅)というものをしたことがないぼくにとっては、それは始めての本格的なツーリングだったし、初めてのラリーでもあった。7日間、いつも日本の最奥部を走ってるという感覚もありました。北海道という、新世界の乾燥した廣野に生まれ育ったぼくにとって、本当の意味での日本の生活文化に触れた、初めての機会だったような気もしました(いさかかオオゲサですか…)。
曲がりくねった四国の国道を走り続ける。朝日を浴びながらジンの香りがする森の中の一本道を駆け抜ける。きらきらとまぶしい清流を行く真昼の道。にぎやかな国道沿いの道の駅で休んでいると仲間たちが先へ行くぞといって、手を振って通り過ぎていきました。折り重なるようにかすんでいる山脈を夕陽が染めはじめ、ぼくはジャケットを着なおして寒さに備える。漆黒の闇ととぼしくなったガソリンにいいしれぬ恐怖をおぼえつつ、あとどれぐらいだろうとビバークまでの距離を数えた夜を忘れないでしょう。それは、2000kmという距離を旅したこと以上に、精神的な旅、精神的な体験だったように思います。
ともすると、速いとか、遅いとか、格式や形式にとらわれてしまうことも多いぼくたちですが、もっとも大切なことは、なにかを体験することです。ぼくの場合は、この後、もう一度TBIを走る(7日間ずーっと雨という、それはそれで実に素晴らしい体験でした)ことにつながり、その後、ラリーレイドモンゴルでまたまた素晴らしい体験をすることにつながっていくのですが、そうしたステップということではなく、TBIそれ自体が、他の何にもかえられない体験だったということを、今になって思い起こします。精神の旅を、体験してください。
ビッグタンクマガジン
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