■10月号(最新号)のBIGTANK MAGAZINEでもISDEレポートの冒頭で触れていることです
が、チェコといえば、現在のチェコ共和国よりも、チェコスロバキア連邦のイメージ
が未だ強いかもしれません。「そうか、今はチェコとスロバキアは別の国なんだよ
ね」という言葉も多く聞かれます。チェコスロバキア連邦の民主化は1989年、そして
チェコとスロバキアが分離独立し、二つの新国家となったのは1993年1月1日のこと。
いずれもごく最近のことです。(1989年の民主化、1993年の分離独立はそれぞれビ
ロード革命、ビロード離婚と言われるように流血の惨劇を伴わない"滑らかな"革命
だった)
■スロバキアが旧制度における軍需経済に頼った体質からなかなか抜け出せずにいる
一方で、チェコは、隣国ドイツとの関係強化を進めるなど、市場経済のうえでも明ら
かな優位に立っています。経済格差は両国の分離独立時、すでに顕著なものであり、
現在まで続いています。文化の面でも、中欧の都プラハの栄華に象徴されるように、
やはりチェコにその重きを置いてそれを否定する人はいないでしょう。
■1992年までのチェコスロバキア連邦。ISDEの国代表チーム、ワールドトロフィチー
ムは最強国といっていい存在でした。第二次世界大戦による中断をはさんで最初の大
会が行なわれたのもチェコスロバキア連邦。それからこの国は、15のワールドトロ
フィ優勝を獲得、17回のワールドジュニアトロフィを獲得しています。もっとも、共
産圏諸国がおしなべてそうであったように、このワールドトロフィライダーたちは軍
人で占められていました。つまり、国家的使命を帯びた職業選手ということです。東
ドイツ製のMZ、自国チェコスロバキア製のJAWA(ヤワ)、シムソンといった、剛健では
あるけれど先進的とはいいがたいマシンに、鍛え上げた肉体と精神力、使命感を乗せ
て、西側のライダーを打ち負かしていたのでしょうか。
■現在のチェコ、現在のスロバキアのワールドトロフィチームは、決して強くはあり
ません。が、シックスデイズの開催地となっていることが如実にそれを表すように、
エンデューロ、モータサイクルスポーツというものがきちんと育てられ、大切にされ
ています。そして自国のヒーローに、大のオトナが喉を嗄らして声援を送っていま
す。チェコのヒーローは、みんなも知っているかもしれません、ロマン・ミカリッ
ク、スロバキアのヒーローといえばヤ
ロスラフ・カトリナーク、ともに大排気量の4サイクルマシンを手足のように操
り、トップ争いの一角に食い込むエンデューロパイロット。お互い、チェコとスロバ
キアの国を代表してシノギを削る間柄ですが、一方ではVORファクトリーチームとしてマニュ
ファクチャラーチームクラスに重複エントリーし、チームメイトとしてトップを目指
すという関係です。
■スロバキアチームは、毎年シックスデイズに国代表チームを送り出しているわけで
はありません。遠征に必要な経済的な理由もそこには大きく関っていることでしょ
う。ですが、今年は隣国チェコでの開催。ヤロスラフ・カトリナークを筆頭に、ワー
ルドトロフィチームを出してきました。ISDEの主役は、なんといってもワールドトロ
フィチームです。が、今年に限っていえば、チェコとスロバキア、その両方の英雄が
ともに所属する、VORチームに対する声援が特に大きかったように思いました。冒頭
に書いたビロード革命のことは、そのミカリックとカトリナークのことを紹介したく
て、書いてみたまでです。
●写真 / JAWA かつてのチェコスロバキア製のマシンがこの赤いマシン |