「EVER」
■以前はぼくも写真を撮っていました。と書けば、今でもとっているではないか、と言われそうです。確かに、今も写真は撮っているのですが、その取り組みは少し消極的で、ある意味では「とりあえず写っていればいい」というぐらいのもので、あまり向上心がありません。写真を撮るという行為には、やってみると想像以上の気力が必要です。人に見せるような写真を撮るということに限ってのことですが「これに賭ける」という取り組みが求められるといってもいい。事象をとらえる、それを文章にする、また編集して出版するということを仕事にするぼくのような人間が、その片手間にできるというものでは、本来ない。いつしかぼくは、カメラを手にすることが少なくなりました。写真を撮るために必要な、気力や気迫や気合が維持できなくなってしまったからです。
■もちろん、写真にもいろいろあります。携帯電話に付属のカメラでパシャっと撮るもの。使い捨てのカメラをバッグに入れておき、思い出した時に撮るスナップ。節目節目に写真館で撮ってもらう家族写真。インターネットに流布する複写のポルノ写真。新聞の一面を飾る報道写真も写真だし、プリクラもやっぱり写真です。特にインターネットの上に溢れている画像データは、もっとも現代的な写真のカタチということができそうです。大量消費され、あっというまに過ぎ去っていく現代の写真の価値は、その一点一点の質が問われることがありません。むしろ安っぽく、流れすぎ、次々に消えていくことが大切で、それ自体は無価値といってもいいぐらい。いつしかぼくたちは、そうしたものの質に慣れてしまい、写真が本来持つ力を忘れてしまっています。瞬間を捉え、永遠にとどめようとする記録の力。記憶され、記録されるべき瞬間。
■1/125秒、1/1000秒。フィルムに、あるいはCCD素子に光をあてるためにシャッターが開くのはそんな刹那でしかありません。そんなわずかな時間に要する努力。写真を撮るために必要な、その気力とは、未来に向かってその瞬間を預けるための、先払い費用のようなものなのかもしれません。その先払い費用が大きければ大きいほど、写真は力がこもっていきます。気迫が写真に写しこまれていきます。そんな力を感じる写真を、ぼくたちは最近見る機会が少なくなっていると思います。
■多くの人がその名を知る、ヨーロッパのモーターサイクルスポーツを専門にするフォトグラファー、佐藤敏光が、初の写真集を刊行しました。その名は「EVER」。ぜひ、手にとってみてください。写っているのは、モトクロスのようでモトクロスではない。何が写しこまれているのか、ぜひ確かめてほしい。これが写真の力です。
ビッグタンクマガジン
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