YUSUHARA 2DAYS ENDURO
■きれいな月の夜でしたね。闇の林道をただただ、フィニッシュのチェックにたどり着くためだけに、マシンの動きとたぐり寄せられる路面に神経を集中させている時でも、いつも月の光がぼくたちを見守っているかのようでした。月はちょうどヘルメットのバイザーの、ほんの少し上にあったようです。めまいがするほど曲がりくねった林道だから、月はぼくたちの前にあったと思えば、次には後ろから柔らかい光を照射しています。もちろん動いているのはぼくたちなのであって、月は気がつかないほどゆっくりと天空を移動しているだけなのですが…。トップグループにデイライトの終了を迎えさせるためにスタートが停止された時、ぼくたちも1時間ほど漆黒の森にストップしていました。夏の夜空に牛乳を流したような天の川が横たわり、人工衛星をふたつ、流星をひとつ見つけました。大規模林道のリエゾンにマシンをとめれば、折り重なる山々の稜線を、やっぱり月の光が美しく照らし出していました。
■SSER 2DAYS、改め"YUSUHARA 2DAYS ENDURO"。ぼくにとっては2度目の夏で、初めて取材で訪れた時のことを含めれば、3年目となります。SSERにとっては16年目の夏ということになるのかな? なかなか気がつかないことかもしれませんが、本当の意味でのオープンロードを使用した競技というのは、国内に少なく、TBIのように移動"ツール"を主目的としたイベントを除いては、このYUSUHARA 2DAYSをはじめとしたシリーズ戦が唯一といってもいいはずです。諸外国にあっても、オープンロードの使用というのは相当難しくなってきているということも、みなさんはご存じと思います。もちろん日本では、事情はさらに厳しいものだし、そのなかでYUSAHARA 2DAYSはモータースポーツとしてはもっとも難しく厳しい道をあえて選び、歩んできたイベントなのでしょう。SSER ORGANISATIONへの賛辞になりますが、この16年間について感謝するとすれば、第一に梼原町のみなさまの心優しいご理解に対してであり、次にライダーに代わってその理解を深めてきたSSER ORGANISATIONということになるのではないでしょうか。
■同時に、ライダーの意識もこの夏のイベントによって育てられてきたのだと思います。昼夜を通じて競技として生活圏を走らせていただくために必要なことを、よほど鈍感な神経を持たない限り、ライダーは現場において実感することができるし、SSER ORGANISATIONはそのことを過不足なく規則によって提示しているわけです。普通の感覚で見れば梼原町というのは、モータースポーツをするには大変"過酷"な環境(開催が難しいという意味で)なわけですが、それをあえて続けているというのは、テストケースとしても貴重であり、そこに生まれた形態は将来のスタンダードを示すものになるのかもしれません。しかし、だからといって、この形態を梼原町ではないどこかへ持っていってすぐにできるかというと、公道上で行われる競技としてベストに近いとはいえ、それでもなかなか難しいですよね。現在のカタチというのは、ただ梼原町のみなさまのご理解ひとつによって生まれているものでもなければ、SSER ORGANISATIONの奮闘によってのみ実現するものでもない。そこにライダーの意識・行動規範というもうひとつの要素が加わった作られる三角形。それがこの16年間の結果といえるのではないでしょうか。
■いろいろなイベントを見てきて、この夏の2DAYSほど"お客さん"の少ないイベントもない、と思っています。ライダーがオーガナイザーに近い意識を持ち、この場所で競技をする、そのために何が求められているか、という視点をオーガナイザーとライダー双方が共有しているということなんですね。その意味では、生活圏というモータースポーツにとって過酷な環境は、良い方向に作用しているのかもしれません。
次回もYUSUHARA 2DAYS ENDUROバナシです。
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