■ゴビ(=GOBI)というのは、訳すると痩せた土地の総称であったり、ステップ様地帯のこと、また砂礫の平原のことであったり、狭義にはモンゴル南部から中国国境を越えて広がる大乾燥地帯を指したりしますが、もっとも一般的には「広大で浅い砂礫の盆地」のことを、ゴビ、とそう呼ぶように思います、遥か彼方にある山の連なりをその盆の縁として、時には半径100キロメートルにも及ぶ広大な砂礫の平原。ラリーを走っていると、そのゴビを1日にいくつも越えていきます。ゴビの中を走るピストは、時に幅100メートルにもなり、あるときはあるかなしかの薄いトレースになります。前方には蜃気楼だけが浮かび、振り返ると自分の残した砂煙が数キロも続いている。目をつぶると、そんな正午のゴビの風景が浮かんできます。
■ともにゴビを駆け抜けた仲間たちのことを話そうとすると、もしかするとぼくは徹夜してしまうかもしれません。が、ではまずいつもぼくの気持ちをホッとさせてくれた田中正一さんのことを書いてみようかな? BMW-GSにぞっこんほれ込んでいる田中さんにとって、ゴビの旅はまったくハネムーンそのものといった様子でした。40リッター超のビッグタンクを抱えて、田中さんはいつも信じられないペースでビバークに戻ってくるのですが、開口一番はすべてGSのオノロケ話。「いやー、さすがGSですよ。さっきもね…」といった具合。オイル交換に、チェーン調整、タイヤ交換と忙しいぼくたちを慌てぶりをよそに、愛機のハチマルを眺めつつ悠然ビールを飲む、そのなんとも言えない幸福な笑顔!! 極めつけは、最終日。ハラホリンからウランバートルまで400キロ続いた舗装路のリエゾン。エンデューロマシンベースのぼくたちが、風圧やら、震動やら、退屈で眠たいやら、ホウホウノテイでウランバートルのチェックポイントにたどり着いたら、田中さんが「とっくについてたよ」という顔で、GSの傍らで横になってました。「いやーまいりましたね。このリエゾンは…」と話し掛けて、しまったと気がつきましたがすでに遅し。田中さん、ここぞとばかりの笑顔で「へえ〜。大変だったの? 全然余裕でしたよ、400キロぐらいへっちゃら…」とこのあたりでぼくは田中さんの首をしめていたのはいうまでもありません。
■参加者ではなく、観察者であるというのはぼくの基本的な立場なんですが、今回はさまざまな協力を得、そして一度ぐらいはという気持ちが強くなり思い切ってライダーとして参加することになりました。ライディングと競争の醍醐味、喜びは言い尽くせません。それはもちろんですが、なによりも楽しかったのは、ラリーにおける「前進する」という共通の目標に、たくさんの仲間と真剣に取り組むことができた、その機会にめぐり合えたということです。ひとつの象徴が、今回、選手たちのサポートクルーとして参加したメカニックたちの活躍だったように思います。ある時は荒れ狂うピストを16時間かけてジープで踏破しビバークにたどり着いた日もありました。そんなメカニックたちはそれぞれのチームの所属にこだわらずすべての参加者に共通の協力者であったと思います。(続く) |