「池町、3勝目その3」
マキシマムタイムに数時間ばかりの余裕を残して池町と江連はビバークのフラッグをくぐった。多くの選手は整備も終わり、南国を思わせる心地よい夜風に当たりながらビールを飲んでいた。しかも明日は9時スタートというこれまでにない遅い朝だ。
池町と江連は2人連れ立って、町のバイク屋で池町のマシンのリアブレーキを完璧に修理してきたのだ。下りでは池町を引き離すことが出来たはずの江連はスポーツマンシップを貫いたのだろうか、与えられたハンディを潔しとしなかった。まさにこれで2人はがっぷり四つに組んで、素晴らしい後半戦の戦いに望むこととなった。
明けて5月3日。民家の軒先に日章旗が翻り、空には高知特有の大漁旗と鯉のぼりが鮮やかだ。頼りない漁村の細い道路を駆け抜けながら決戦のSS-7へ。さらには昨日のSS-6の代替のSS-6EXが約10km、そして複雑なナビゲーションが要求される今大会最長25kmのSS-8、まさに勝負の一日となった。
SS-7は四万十川の美しい岸辺に用意されたクローズド。このSS池町が2位、江連4位、しかしタイム差は10秒。江連がまだ10秒のマージンをキープしていた。続くSS-6EXはキャンセルになったSS-6を補う形で急遽用意された。池町には千載一遇の好機。ここで逆転し夜のSS-8で完璧にマージンを築く、そう考えたはずだ。しかし勝負のあやは玉虫色だ。なんとこのSS、ベストタイムをたたき出したのは江連、10分21秒。2位前田、3位辻本、そして池町は江連に24秒遅れる4位。この時点で池町は夜のSS-8に全てを決する覚悟を決めた。この夜のSS、それは実にテクニカルな上ナビゲーションのシビアさが勝敗を決する。そして唯一40分を切るタイムでフィニッシュに飛び込んできたのは池町。オフィシャルは以降のビハインドを計るためにクロノグラフのストップウォッチのボタンを押した。なんと江連はこのタフなSSで、池町に遅れること2分という大失策。
深夜にビバークに張り出された総合リザルトには、トップに返り咲いた池町がトータル1時間45分12秒。江連1時間47分07秒。「明日のSS2本は、それぞれ江連に譲って無理なく走る」と決めた池町。SS-9では15秒、SS-10では3秒、それぞれ譲って総合タイム2時間02分26秒で完全な勝利を飾った。TBI通算3勝目。プロとなって勝負の世界に生きる池町の真骨頂を見せる完璧な展開。しかし評価すべきもう一人は、江連忠男。見事な戦いぶりで最良の友と生涯の記憶に残る戦いの場に身をおくことが出来たろう。
こうして優勝者の物語は、そこだけが輝いているようにも見えるのだが否、それぞれのカテゴリーや順位争いの熾烈さは随所に見て取れた。こうした勝負の面白さもここのところのTBIの特徴なのである。
きょうの一枚
四国西南部はリアス式海岸が続く。入り江が多く海釣りのメッカでもある。水は透き通るように澄んで、南海の楽園を思わせる。来年はこの西南域が主舞台になる。 |