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 「ラリーモンゴリア2015.闘いの真相」 
暑い夏が、なんとなく過ぎ去ろうとしている。 存在感のあった夏の暑さも、消え去ろうものならすぐに忘れ去られ、寒い日の朝などは「ああ、どんなに暑くても夏がいい・・・」なんて思うのだから人間と言うのは、たいしたことがない。 ラリーもそうだ。どんなに覇を競い合って闘っていても、ひとたびリタイアを喫すると、過ぎ去った夏、のように忘れ去られた程存在になる。 だから、どんなときにも勝てる時には勝たないといけない。 
さて、前置きからなにを書こうとしているか、想像がつく人も少なくないだろうが、今大会の最大の見どころであり、興奮したのはTeam HINOのクールに見えるけど実は熱く激しい戦いぶりだった。 
ここのところ、抜群の速さを身に着けてきたモンゴルのAUTO/MOTO勢。そこに真っ向勝負を挑んだのは、なんとカミオン。まさに立ちふさがる!とはこのことだろう。 モンゴル勢もしばらくは、わが目を疑っていたのではないか。。 
1日目のリザルトもともかく、2日目も、3日目もコンスタントに早いのである。ただ速いのではなくて、確実に総合優勝に向けてひた走るのである。それに気づいたコンペティターらは、揃って畏敬の念を抱いた。 
どんな大地でも 「HINOがいたら、まちがいがない」 というくらい、ナビゲーションも超一流だ。 
そして一斉スタートで見た「実は速くないんだ。」と言う事実。 これはマシン開発コンセプトに由来するのか。はたまたドライバーの考え方に由来するのか。。 前者であれば、加速性能よりもルート全体を通してもアベレージの高さを狙っているのであり、後者であれば一斉スタートの勝負意識によって起きるトラブルを考え、無理をしないというクレバーさがある。 
面白い話がある。 ドライバー菅原照仁は、15年も前の一斉スタート(今回と同じ場所だ)に6×6カミオンバレーのドライバーとして 「ここだけ、思いっきり走っていいか?」 
と聞くので 「面白いね。」 そう答えた。 その時は、なんと6×6はすくなくともAUTOの中ではトップを走った。 
これはモンゴル勢らのマシンの変遷もあるが、彼の成長を見せるエピソードでもある。 
さて、総合2位で迎えたETP7-SS2,つまり最後から2つ目のSS。 首位に立っていたのはボルドバートル、TOYOTA 
TACOMA Baja仕様。総合2位で追うのはHINO。 美しい湖に沿って駆け抜ける珠玉のルート。 
こういうところで、こういうことが起るのだという好例が起きる。 いわゆる勝利の女神のいたずらだ。 
若しくは湖から出てきた女神が「お前の落としたのはこの金の斧か!?」 と、問うているかのようでもある。 
ボルドバートルは、確実な金の斧を手中に走った。そして、起きるのだ。TACOMAは、水を吸ってストップ。約50分ほどのロスをした。 
これまで全くミスもなく、トラブルもない完調のHINOは、ついに最終日を前に総合1位に躍り出た。 
しかしその時、サポートの15年前の菅原照仁が一斉スタートを、トップを切って駆け抜けた6×6のサポートカミオン(長くダカールのサポートカーになっていた)がビバークへいち早く到着しようとしてショートカット。なんと湿地につかまってスタック。脱出は2日かかることに。 
総合首位に立った、そのビバークにこれまでワークス然としたHINOのサービスサイトは存在しなかった。 
綿密に組み立てられた、機械式時計の歯車がほんのわずかだが狂った瞬間だ。 
もちろん、それだからと言って総合優勝には何の疑いもなかった。 全く何の心配もないのである。 
最終ステージ、つまりETAP8の朝。SSのスタートは、そのビバークのツーリストキャンプのゲート。 
メカニックたちが帽子を取り、手を振って高らかに総合優勝へ、凱旋のようなスタートを切ったHINOを見送った。 
スタート直後には鋭角の右ターンがある。まあ180度方向を変える。だれもが駆動系に大きなロードを掛けて、右にターンする。 
HINOはやや抑え気味で過度の負担を押さえてるかのように見えた。 誰もが同じように、早めにアクセルを開けてはマシンコントロールをする。 
その少し先からデューンに入って行く。HINOは、デューンに入る前から足回りの異音を聞いたという。 
右後方のリーフを破損したと聞いた時に、あの鋭角ターンのせいではなかったと、すこし主催者としては安心した。 
右鋭角ターンで、旋回中の加速すれば負担がかかるのはリアデフや左後ろのサスペンションだろうからだ。 
砂丘の中で手中に収めた総合優勝は、するりと逃げて行った。 
日本人によるラリーモンゴリアの総合優勝は、おそらく(ちょっと調べてみるが・・・)MOTOの池町によるもの以来。。しかもカミオンで総合優勝なら、こんなに面白くて画期的なことはない。 
結果、総合優勝はMOTOの手に渡った。面白いものだ。 
こうして、暑い夏は、あっけなく終わった。 
菅原は整備して復活したマシンを西安に送った。 
間もなくスタートするチャイナラリーのため西安に向かうという。 
マシントラブルは、さまざまなことを示唆するに違いない。 
まだ暑いタクラマカンに、さらなる成果が得られることを期待したいし、本当に 
速くなったマシンと、ドライバーの腕を、たぶんKAMAZも来るだろうから、思いっきりアピールしてきてほしい。 
テスト、とはいえ、勝たなければいけない。勝てるチャンスが巡ってくることは、人生の中でも少なく、それを確実にすることこそ最良のテストである。 
  
  
  
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