「R1200GS-Adventureのことなどを少しレポート」
ボクの手元に3台のアドベンチャーが届いたのは、2007年7月9日。北海道4デイズやら西安への出張やらの谷間。でちょうど今日でほぼ3ケ月。もちろん西安−パリに出かけるためのものですから3ヶ月のうち1ヶ月以上はコンテナの中で船やら貨車やらに揺られて過ごしたわけです。
10月5日にパリのCDGにほど近い日通のコンテナターミナルで、帰国のための預け入れをした時点では、約14000kmになっていましたから、松山で慣らしを400kmと横浜まで800km合計1200kmを国内で走行していましたから、12800kmが西安−パリの走行距離といえます。ただし途中でトリップが動かなくなっていた時もありましたから・・・でもボク的にはこんなに短時間で、これほどの距離をバイクで走ったのは、間違いなく初めての体験です。なぜなら長年手元にあるR80G/S PDも、いまだに走行距離計は14800km、HP2は2000km(うち1000kmは春木さんが乗ったし)。特にこの10年はツーリングにも出かけたことがないくらいになっていたのは事実です。で今回一念発起した原因のひとつは、やはりこの新しいマシンの存在であったことは事実です。
というなれば、これほど乗ったこのR1200GS-Adventureのことをレポートしておかなければなりません。でもおそらくこのバイクは、多くの方々がさまざまなインプレッションを絶賛とともにお書きになっているので、ボクはといえばちょっと違う視点で書かなければなるまいか?と悩みつつパソコンに向かいます。だいいちまだ左手は、ワルシャワ市内に向かう渋滞辺りからしびれていて、まだその記憶を呼び覚ます奇妙な感触が、旅のボリウムを実感させています。
結論的に言えば、工場出荷時で世界1周に出られる!という歌い文句は、概ね正解です。こんな特殊な機能を持ったバイクは無いと思いますが、モーターサイクルジャーナリストではないボクは、ほかに世界にどのようなバイクが存在するのかは良く知りません。ただし真にチャレンジングな世界一周に出かけるならば、若干のカスタマイズが必要でしょう。いやそれもアスファルトと良好なダートロードのみなら不必要なことですが。
まずタイヤ。我々はコンチネンタルのTKC80を横浜のホテルで装着して西安に送り出しをすることにしました。4台のR1200GS-Adventureのために用意したのは、ホイールコンプリートのTKCを前後各1本、タイヤのみ前後各2本。さらにヨーロッパ用にトレイルアタックを前後各5セットを用意しました。風評ではTKC80は、耐摩耗性に難ありと聞いていました。そんなことも手伝って船積み前夜のタイヤ交換としたわけです。タイヤのインプレッション等は後述とします。
マシンの仕様は各車基本的には同様ですが、若干ずつの差異はあります。特にうち2台はノグチシートが奢ってあり。ボクのは特にシート高が高くて、素晴らしいパフォーマンスなのですが、足つきの悪さにひと苦労しました。またこれにあわせてハンドルポジションも上げてありましたので、180cm近い身長と相応の体重を誇るボクにも窮屈さはなく、ライディングポジションはベストでした。特に膝の曲がりも緩和され、スタンディングも問題なく!大きな足のボクはツアラテック製のギアレバーエンドピースで、シフトのタッチを向上!これは楽でした。
それ以外はほぼストックのままでしたが、若干のプロテクションパーツは純正品やらツアラテック製やらを装着。防眩バイザーをヘッドライトにつけなければ夜間走行は眩しいので装着。その場合のヘッドライトプロテクターは純正品でなければだめです。僕はツアラテック製のために、プロテクターのアクリル面の掃除が出来にくくて、ソートーの光量がスポイルされる羽目になりました。またメーター照明もスクリーンによって反射されるので、疲労の原因となるために対策が必要でしょう。
全体の印象としては、マシンに助けられた13000kmであったことに間違いはありません。最初はその巨体に「どーなるべえ」と思ったのでしたが、サスの絶妙さ直進安定性の高さ、突然現れる舗装路でのギャップやアナッポコでの対処の良さ。そして特筆は、いざとなれば軽がると180km/hを越えるまで加速を続けるエンジンとそのボディバランスの良さ。
フルタンクでパニア満載のフルロードで、どんどん加速するほどに安定性を増すのには驚きます。パニア装着時は180km/hに規制されていたのですが・・・すいませんアウトバーンでは200km/hをマーク。そのまま航続したいと思わせる辺りは、なまなかのバイクではありません。
またスクリーンに身を潜め、グリップヒーターを最大にして、氷点下7.5℃まで下がったカザフステップを150km/hで突っ切るという荒業もこのマシン以外では考えられません。
しかもこのマシンは、数日前まではタクラマカンの砂を超え、泥沼と化したロプノールから脱出し、またサンドベッドの広がるトルファンへの道を越えてきたとは想像しにくいではありませんか。
さらに驚かせましょうか。それは60歳と57歳の2人のライダーはオフロード走行が初体験だったということです。また60歳のライダーは1日で350km以上走行したことはないのです。頼りはまさにマシンのもつおおらかな性能なのでした。
タイヤに助けられた部分も少なくはありませんでした。コンチネンタルTKC80は良く耐えに耐えてくれました。10000km無交換でも一向に構わないし、パンクの心配もまず皆無といって良いでしょう。若干、砂の中ではフローティング性が悪いのと1.5kg/m2以下ではリム側にも問題があるのか、しばしばエア抜けが起きました。どうも深い砂の轍ではリアへの加重移動が少しでも遅れると、いとも簡単にフロントは轍を噛み、その巨体を支えたり立て直すのは体力勝負となって、アクセルを開けてクリア!というわけには行かないのでした。
そんなこんなでさんざん砂の上に投げ出されたのも事実です。その際の問題も少し。まず純正のパニアケースが弱いようです。パニアのキーシリンダーも脱落します。すぐに変形するパニアの蓋は、直すのも一苦労です。パニアの補強は絶対条件でしょうね。これをいい加減にしておくと、高速走行時にパニアの蓋が突然開くというアクシデントも起きます。アウトバーンで中身を撒き散らせばどれだけの事故になるでしょうか?さらにオプションのフォグも、一度も点灯しないまま装着していた2台とも脱落。取り付け方法や強度などに問題がありますね。またエンジン周りのガード類も、少しレベルアップしたほうが良いでしょう。砂の中の転倒なのに1台はヘッドカバーからオイル漏れ。よく調べてみるとエンジンガードとの干渉でわずかな亀裂が生じていました。これは即交換。
リアサスも心配なところでした。1台が早くからオイルをにじませていましたが、やはり8000kmもたなかったようです。車外品をスペアにと考えたのですが、ホワイトパワーもオーリンズもまだラインナップされていなく(ツアラテックの本社のカタログには掲載されていたのですが・・・)、なんとか手持ちで間に合った純正品1本をスペアで持ち込みましたが、この1本のみでなんとか走りきることとしました。
スペアパーツは左右のヘッドカバーをはじめイグニッション系、エレメント類程度。エアエレメントはマウント位置も良く、エアで吹く程度で充分でした。なんとレバー類は1本も折れていません。多めに用意したプラグ類やイグニッションコードもただの重しでしかありません。つまり大量に持ち込んだ交換部品は、右のヘッドカバー1個のみの交換でしたから、このマシンの素性が分かろうというものです。
トラブルと言えばその程度なのですが、最大はやはりイグニッションのイモビライザー?のトラブル。突然エンジンが始動しなくなり「EWS!」というワーニング表示が・・・早速取説を見てみても、その表示は何を意味するのかが書かれていません。「おそらくサイドスタンドSWのトラブルだろう」とか喧々諤々。
日本に衛星電話して、結局はキーを認識していないということがわかりました。純正のキーをそのマシンが認識せずに拒んでいる!など、悲しいお知らせというほかはありません。バッテリーターミナルをはずすと15分ほどで車体内に残る電圧が0まで下がります。そうするとエラーのログがクリアされて再始動が可能なのですが、この作業を長い旅で繰り返すのは容易ではありません。そのうちマシンを止める時はキーはそのままでキルスイッチのみで切ります。でもそうしていればバッテリーが上がります。
中国とカザフスタンの国境の緩衝地帯を、なんとこのマシンを押して行かなければならなくなったときは、理不尽さに怒り心頭でした。また同じようにカザフロシア国境も、押していく羽目に。
何とかスペアパーツを日本に頼むのですが、ロシア税関では不審な電子部品として通関されませんでした。その後、旅はミュンヘンさえ経由したのですが、どうしてもこのパーツは手に入らないままでした。
それでも対策は自分たちで見つけ出しました。キーの情報をほかのマシンで認識してもらうという手段ですが、このことに関しては詳細に書くことは問題があるといけませんので控えることと致します。
そしてサンクトペテルブルグで履き替えた例のコンチネンタル・トレイルアタック。トレイルとは名ばかりのトレッドパターンのデザインが可愛らしいのが気に入りましたが、これによる劇的な変化はマシンそのものが変わったかと思わせるほどでした。特にフロントのグリップ感の向上は、なんと言えばいいのか、長くロードバイクに乗ったことのない我々には異次元の経験でした。アウトバーンで雨に降られた時も、一向に変わらぬ安定した性能で、タイヤの技術開発は凄いことになっているのだ!ということを実感。だって僕の知る最後のロードタイヤはドカに履いていたファントムだし・・・30年前のね。
そんなこんなで、13000kmを走りきったこのバイクは、ギア比に関しては少し意見が分かれる局面もありましたが、とにかくトータルに評すればエンジンや車体に関しては実に完璧。その驚異の耐久性、絶賛に値する全天候性能。そしてライダーの未熟さと体力の無さをカバーするコンフォートぶり。その疲れさせないという最高の性能は、メンテナンスフリーもあいまってホテルでの滞在時間を無駄にマシン整備に要しないあたり、50代の無謀な冒険者たちの強い心の支えでもありました。一部には「もっとメンテナンスしないと・・」という意見もあるにはありましたが。
こうしたハードな旅に選ばれるマシンは、その多くをこのR1200GS-Adventureが占め続けるのではなかろうかと思います。今回のルートは、特に中国からカザフと、全くこうしたツアラーの走りにくいエリアでしたから、同じ志の仲間に会うということはありませんでした。
素晴らしいマシンと出会えたこと、そして次の旅に向けて徐々に進化させていこうと思う部分があること。日本の道では大きく重たいマシンですが、それでも世界に飛び出せるマシンを手にして走る喜びは、大きいものがあるでしょう。
そしていざ世界を走る!となればこれほど頼りになるマシンは無い!と胸が張れることでしょう。
最後に一言。憧れのバルト三国エストニアのバルト海を見るアップダウンとキンクの続くワインディングで、ボクはマシンとタイヤと道路の織り成すえもいわれぬ一体感を得ました。40年近くバイクに乗ってきて、これほどまでのライディングの喜びを知りませんでした。フランスのアルザス地方では土の匂いに驚き、シャンパーヌの村でモエの甘い黄金の輝きを感じ、こうした今回の旅の感動は、やはりこの1台のマシンによってもたらされたということは、絶対的な事実であったと言えます。
次の旅は、はて、どうしようかな。
|