行程17日目 モスクワ - サンクトペテルブルグ 720km 「サンクトペテルブルグへの道すがら、考えた。」ゆっくり目の朝食を、モスクワの中心部にある高級ホテルラディソンで食べていた。疲れきった身体に、高級ホテルの朝食ならではの新鮮な生野菜やフルーツが、今日一日のヴィタミンを補給してくれる。睡魔を克服するにはビタミンCは欠かせない。
さて、ここまでおじさんたちは、長い旅をしてきた。
「この旅の意義はなにか?」
不思議なのだろう、そんな質問を投げかける若いメンバーがいる。きっと疲れてきたのだろう。
「意義?そんなもんは知らんよ」
そう思った。バイクはモスクワの複雑な道を曲がり、石畳の振動を楽しみがら、赤の広場にたどり着いた。葱坊主のロシア正教会が朝の光に輝いて荘厳だった。
15年前のパリ−モスクワ−北京の時は、ここは夜だったから、ライトアップされていてそれはそれで悪くは無かったのだが、日の光に輝くのも素晴らしい。
ちょっとおじさんたちは感動した。この感動は、この後の走ることへのエネルギーの補給となったようだ。
この美しいモスクワの街は、この数年間に手入れが行き届き、旅人を臆させるほどに発展しているではないか。
レニングラード通りを北に、サンクトペテルブルグまで延びる道に乗って考えた。
「その、意義ってなんだろう?」
バイクに乗るのにいちいち意義を見つけなければならないなら、もうバイクというものの存在すら怪しくなるんじゃないかと思う。バイクの存在意義を問われているようでもある。答えは割りと簡単だ。ただひたすらに「走る。走る。走る。」走りながら、そして走ってから考えればいいことだ。
それが証拠に、今朝の高級ホテルに横付けされた黒塗りのメルセデスの男たちの、羨望のまなざしを見たか?
エナメルの靴に、馬鹿の一つ覚えのような黒ずくめのアルマーニな男たちの驚きを見たか?
今朝、うす汚れたライディングウエアで食事をする時、あるメンバーに尋ねた。
「こんな高級ホテルで、こんな格好で恥ずかしいと思うか?」
「少し!」
僕はまったく思わない。上質な黒いスーツなんかはるかに及ばないほどに、汚れたおじさんたちの姿は格好がいい。そう思うひとつの理由は、ここが中途半端な高級ホテルではないからだ。豊かそうに見える男たちが実は貧しくて、泥んこのユーラシア大陸を越えてきた男たちのほうがはるかに男として豊かなのだと。
旅人を見続ける、こうしたホテルの人々は理解するに違いない。
出発する時にはベルボーイはおろか、成金趣味な黒塗りのメルセデスの客たちも、ホテルの支配人たちも、われわれの旅を眩しそうに眺めていたではないか。
赤の広場では映画から抜け出てきたような、ブラッド・ピットとジョニー・ディップを足して2で割ったような男が、微動だにせずに眺めていたではないか。彼の心はさざなみが揺れていたはずだ。対向するトラックやバイクが、歓迎のクラクションを上げる。
そして道すがら「意義はロッキー5にある」と思った。
ロッキーの誰もが止める無謀な挑戦も、勝てないと分かっている闘いも、判定で負けるのならば意味があるということを。息子との葛藤の中に親父として示せるただ一つのこと。歴史を語るのではなく、行動こそが男の力なのだということ。おじさんたちには、男としての黙して語らない魅力が溢れていた。
サンクトペテルブルグが近づくと、かすかに海のにおいが届いた。大陸を横断してきたおじさんたちの鼻腔をかすめた海のにおいは、こうした無謀な挑戦が終わりに近づいてきたことを告げていた。
サンクトペテルブルグはパリだ。というお話は、休息日の明日としよう。いよいよ次はロシアをあとに、バルト三国へ向かう。タリンでお茶を、そしてリガで飲もう。
西安-巴黎 絲綢之路 国際越野賽 2007の模様はこちらのサイトにてお楽しみいただけます。写真など随時掲載中!
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