「はやぶさ」の壮挙
仮に地球上でその精度を求めるなら、日本で打ち上げて、ブラジルのリオデジャネイロで誰かに留まっている蚊に命中させるようなもの―。
小惑星探査機「はやぶさ」が地球と火星の間を巡る小惑星「イトカワ」に着陸したときの解説にあった。なんだこりゃ?と驚いたのを覚えている。
その「はやぶさ」が、」何度かのトラブルを乗り越えて、この6月に地球へ帰還できそうだ。何とも夢のある話で、政治的にも経済的にも“行き詰まり”状態の日本で、久々の明るい話題だ。
小惑星「イトカワ」は400メートル×500メートルほどの“宇宙の塵”に過ぎない。そこに着陸し、土壌のサンプルを採って地球に持ち帰ることは、とてつもない精度が探査機に要求される。間もなくそれが現実のものになろうとしている。
これを弾道弾用のロケットに応用すれば、まさにピンポイントで的中させるのはたやすい。ある意味で核を持たない日本だが、これに普通の弾薬を搭載することで、狙った場所へは確実に着弾させることが証明されたようなものだ。
軍事的な話になると、夢もロマンもなくなってしまうから、宇宙の冒険物語のように受け取ると、夢はどこまでも膨らむ。銀河鉄道999が好きだった人は「はやぶさ」の壮挙に壮大なロマンを感じ、喝采を贈るはずだ。
400メートル×500メートルの浮遊物は海上を漂っていても見つけるのは困難。まして約23億`離れた宇宙空間を漂う標的に当てるだけでなく、着陸させてサンプル路収集し、また地球へ帰還するというのだから魂消る。
往復の飛行距離はざっと45億キロに達するという。鹿児島県内之浦で打ち上げられたのは2003年5月。帰還予定は6月なので、旅立ちから約7年かかっている。3基のエンジンのうち2基がまずトラブルで停止。残る1基もストップ寸前になったが、初めにトラブルを起こして停止させていたエンジンを、遠距離操作で蘇らせて、地球への針路を維持してきた。
既に地球を周回する楕円軌道に入ったというので、今後は高度を下げてくる段階で、軌道修正を何度か行うだけでいいようだ。
お先真っ暗な日本では、久々に明るい話だが、報道は今ひとつ地味だ。どこの国にもできない“壮挙”ではないか。小さい記事は何度か出ていたが、7年間に報道されたのはほんのちょっとだけ。
飛行機も電車も車を走らせることも、今の年配者の子供時代には大きな夢だった。夜、澄んだ星空を仰向けに転がったまま見続けていると、引き込まれるような不思議な感覚になる。今の子供たちにそうした機会は希だろうが「はやぶさ」の壮挙を、多くの人に伝え、日本の持つ科学技術の素晴らしさを喜び合い、関係者を激励したいものだ。
訳の分からない“仕分け人”も科学技術はまた人々の夢を育むものでもあることを知るべきだろう。
【注】詳細はJAXAのホームページ(右) [URL]
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