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「インド、奇跡と混沌の国-1」

インドの魅力を一言で言うと”混沌”である。

僕はこれまでインドを三度訪ねているが、土地が広すぎてとてもすべての観光地をカバーできるものではないし、あまりにも奥が深くてかの地を理解できたなんてとても言えない。初めてインドの地に足を踏み入れたのは1996年・・・。それは刺激に満ちた冒険の毎日だった。

1996年当時のインドは、IT関連などで大きく経済発展する前夜であり、社会的にも混沌としていた印象がある。富裕層はほんの一握りであり、ミドルクラスも少なく、先進国に比較して多くの人々が経済的な貧しさから脱していなかった。旅行に関しても、安全というイメージにはほど遠い感じだった。

武勇伝といえば当時はインド旅行だった。衛生面や伝染病、治安面などの問題も深刻であり、気軽に行ける土地ではなかったからこそ、インドへの一人旅はある種のステータスがあった。

初めてのインドは、一人旅にまだ不慣れだった僕の神経をかなりすり減らしたが、それを補って余りあるほどの刺激に満ち溢れていた。タイの首都バンコクでインドまでのチケットを買った僕は、インド入国後首都ニューデリーにある有名な安宿街、パールガンジ(メインバザール)に向かった。

パールガンジの幅の狭いメインストリートの両脇には、旅行者向けのクルタ・パジャマやエスニック調の衣服、みやげ物だけでなく、地元の住民のための食料や香辛料、生活雑貨を扱うお店がひしめくように軒を連ねていた。安宿もこの界隈に密集しており、一泊500円程度の宿も多くあった。

パールガンジのメインストリートを歩いていて、あまりの刺激に僕は目が回りそうになった。それは五感に対する強烈な刺激だった。通りには人が溢れて、すれ違いざまに何故か体を触っていく。わざと触っていく。しかし誰も気にしていない。

店の軒先には赤や黄色の香辛料が山積みにされ、その鮮やかな原色は視覚を刺激した。街中に陣取る野良牛もまた視覚的に刺激だった。TVに映るカラフルでエネルギッシュなミュージカル仕立てのインド映画も驚きだった。街角で飾り立てられ手厚く崇められているインドの神々も毒々しいまでに原色で刺激的である。

街中に溢れる音も驚きだった。聴覚も、オートリクシャーのけたたまししクラクションの音、妖しい笛の音、激しいリズムの映画音楽などクラクラするほど刺激的だった。強烈な臭いも嗅覚を刺激した。まず強い消毒臭が鼻を突く。

かと思えば、軒先に山積みにされたカラフルなフルーツの甘美な匂いが気持ちをとろけさせる。次の瞬間、また異なる種類の臭いが脳髄を揺らす。それはカレーの匂いなのか牛糞なのか、はたまた両方なのか(笑)。まさに混沌である。

インドに来て、日本がいかに無味無臭の国であるかということに気づかされた。と同時に、インド文化の奥深さと面白さにノックアウトされた。この五感を徹底的に刺激する土壌が、インドのロジカルかつ超越的な精神文化を生み出し、ゼロ概念を発見するほどの崇高な哲学を生み出し、心と身体を繋げ悟りに導く技法を生み出し、独自の高度な医術や建築、豊かでユニークな芸術を生み出したのであろう。

この国には、街を歩くだけで軽く別世界にトリップしてしまうようなサイケデリックな刺激が、日常生活の中に溢れているのである。

続く・・・。


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