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「天使の名前を持つ男」

ムハンマド・ガブリエルという友人の話である。ムハンマドとはすなわちマホメッド。イスラム教の創始者であり偉大な預言者の名前である。ガブリエルは、そのムハンマドに神の啓示をもたらした天使の名前・・・。彼は、預言者と天使の名前を持つ男だった。

旅先で、肌の色や言語の異なる友人を見つけることはそれほど難しくはない。しかし、それは”旅行者”という共通項がある者同士に限った話である。現地の人々と友人になることは、思いのほか難しい。

”友人になったつもり”ということはよくある。しかしそれはこちら側からの一方的な思い込みであることが多く、相手にとっては所詮僕らは一過性の旅行者に過ぎない。ニコやかに交流を楽しむことはあっても、お互いの意図にズレが生じていることが多く、本質的な意味で友人になることは難しい。

しかも相手が多くの旅行者を相手にし、料金交渉において手練手管のかけひきに興じる現地のタクシー運転手ならなおさらである。ムハンマドもタクシー運転手だった。彼はカイロ市内から西方に約13キロ、ギザの大ピラミッドに程近いインターナショナル・コンチネンタル・ホテルに常駐していた。

ヌビア系の浅黒いの肌を持つエジプト人の彼は、ジェイミー・フォックスのような容姿と利発さ、そして落ち着いた雰囲気を持っていた。初めて彼に逢ったのは、2003年のファラオ・ラリーでのこと。大会開幕前に前乗りした僕は、飛行機の隣席に座ったオーストラリア人のレイチェルと仲良くなり、一緒に遺跡探訪することを約束していた。

僕とレイチェルは、ホテル前にたむろするタクシー群の中から、ムハンマドが操るタクシーを直感的に選び乗り込んだ。彼は流暢な英語を操り、屈託のない笑顔とファンキーでやや大げさな身振り手振りで僕らを魅了した。他の一般的な運転手と違って、料金交渉に拘泥することもなかった。

彼は、僕がファラオラリーに出場するためにエジプトにやって来たことを知ると、こう言った

「あんたはラッキーだよ、ジャパニーズ・フレンド!」
「何で?」
「去年、俺が乗せた選手は優勝したんだ!だからあんたもきっと優勝するよ」

僕は軽く笑いながらこう言った。

「インシャアッラー(神の思し召しのままという意味で、アラビア語の定番フレーズ)」

そのときは単なる冗談としか思っていなかった・・・。

しかし、彼の予言は実現した。僕と菅原照仁くんのチームは、カミオン・クラスで優勝してしまったのである。ファラオラリー自体初出場だったし、国際ラリーでクラス優勝してしまうということ自体驚きで、しばらくの間実感がわかなかった。

ムハンマドに予言が実現したことを伝えると、彼は当然だといわんばかりにこう言った。

「あたりまえだよ。なんせ俺は天使の名前を持つ男だからな!」

彼とはお互いに連絡先を交換しなかったものの、エジプトに行けばすぐに見つけることができる自信があるし、今でも繋がっている感じがしている。

その翌年、僕は再びファラオラリーに出場するためにエジプトに渡ったが、すぐに彼を見つけることができた。ムハンマドは僕を見つけるとギュッと抱きしめこう言った。

「アッサラームアレイコム!ブラザー!!」


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