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「ソウル・ブラザー」

インドのアグラという街に滞在していたときの話である。ここは、世界遺産としてあまりにも有名な白亜の霊廟タージ・マハルを擁する街である。僕は、日本人観光客がほとんど宿泊していない安ホテルに宿泊していた。

そこは中庭が美しく手入れされた小洒落た安ホテルで、西欧人のバックパッカーが多く宿泊していた。中庭はオープン・カフェになっており、日が暮れると社交場に変わった。僕はそこで紅茶を飲みながら一人で読書をしていた。

するとカナダ人のロビンに声をかけられた。彼女と談笑していると、そこにイングランド人のジョシーが加わった。

さらに隣のテーブルに座っていたメキシコ人アランをも巻き込んで、僕らの輪はにぎやかになった。僕らはすぐに意気投合した。彼らももちろんバックパッカーであり、豊富な旅行経験を有していた。

僕らはお互いの旅の話、インドの印象、最高の思い出、冒険談、好きなロック・ミュージックやお互いの半生、人生観などについて語り合った。

たった一晩交流しただけである。しかし僕らは、国籍を超えた特別な何かを感じていた。特にアラン・ザビッキーとは、兄弟の絆のような感覚を感じていた。彼とは不思議な縁で繋がっていたのである。

これはアランが言っていたのだが、彼のファミリーネームであるザビッキーと僕のサイキがよく似ているというのである。それに年齢もまったく同じ。彼は広告の仕事をしていて、僕は広告の研究をしている(今は広報の仕事をしている)。お互い旅行好きであること、そして聴いている音楽、読んでいる本などもほとんど同じであった。

親近感を超えた奇妙な符合がそこにはあった。旅をしているとこんな出遭いもあるものだ・・・。

インドから帰国した後も僕らはメールでやりとりを続け、その3年後僕はメキシコに彼を尋ねた。彼は僕を見つけるなり、”ヘーイ、アミーゴ!”と叫びながらギュッと抱きしめた。3年ぶりに会うアランの容貌は、以前とまったく変わっていなかった。相変わらずヒッピーのように長髪を後ろで束ねていた。いや精神的には今でもヒッピーなのである。

しかし、彼の生活は大きく変化していた。最愛の女性と結婚し、広告会社を起業し、子供にも恵まれていた・・・。

アランは愛車のゴルフに僕を乗せ、夜のメキシコ・シティを詳細な解説つきで遊覧してくれた。その後、ソカロにある伝統的なバーで乾杯した。僕らはコロナ・ビールを傾けながら、お互いの近況について語り合った。3年も会っていないし、ましてやお互いについてほとんど知らない。

しかしこうやって会話を始めれば、その距離や溝は一瞬にして埋まってしまう。地球の裏側に住んでいても、僕らの距離はとても近いように感じる。やはり彼は、僕の魂の兄弟(ソウル・ブラザー)だと感じた。同じことを彼も感じていたようだ。

別れ際に、アランはこう言った。

「アスタラビスタ!ブラザー!!!」 


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