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【2008TBI SS13 後編】

軽トラでも一発でクリアするのがキビシイような小さいコーナーを何度も抜け鋭角に尖った石の転がるガレた急勾配を駆け上がっていく。全長25kmを越えるSSなので、とりあえずペース配分を考慮し普段のようにギンギンに攻めるのではなく、8割程度のアクセル開度で前半を走る作戦に出た。下の方から時折、このシチュエーションには場違いな2ストパラレルツインの咆哮が山肌をこだまするようにして耳に届いてくる。

 「TDRが来る、急がなければ・・・」

実際には2台うしろのスタートなので、そんなすぐには追いついてこないのだけれどあのエキゾーストノートを聞くと何だか気持ちが焦り始める。そんな中、コンセントレーションを欠き気味でフワフワ走っていると小さく崖が崩れた跡の乗り越しを跨いだところで前輪が急に接地感を失い久々にフロントを救われて激しく転倒してしまった。あんなに激しく地球にニードロップをかましたのは、産まれて初めての経験だ。

幸いにもニーシンガードが膝を守ってくれて、すぐさま立ち上がることが出来エンジンもキック数発で目を覚ましたので、リカバリー自体はそれほど時間が掛からなかったもののフロントフォークが激しく捩れてしまい、大きな岩にホイールをぶつけても一度バイクを降りて前輪を股に挟み、渾身の力を込めてハンドルを捻っても元のポジションに戻ってはくれない。一瞬悩んだが、ここで工具を取り出して修正するには時間がもったいなかったのでそのままハンドルが少しオフセットした状態で再び走り出すことにする。

ここから先はあまり良く覚えていないけれど、動きの悪くなったフォークが無交換のままでブロックが欠けているフロントタイヤと相まって接地感のほとんど無い状態で滑りまくる前輪をなだめすかしながらSS中盤のヤマ場”鋭角に曲がる分岐”をどうにか一発で左折してオンコースを死守。ここからの下り坂がとてもスリッパリーな路面の連続でXRの挙動がさらに不安定になってしまいリアブレーキを多用しているうちにフェードしてしまう”負の連鎖”状態に陥り仕方なくさらにペースを落として走っているうちに、今度は左足がだんだん痺れてきて最後はただのツーリングのようなヘロヘロ状態で、薄暗くなったゴールに飛び込んだ。

まさに”青息吐息”状態だったにもかかわらず、後続の車両にパスされることなくSSを走り終える事が出来たのは運が良かったのだろう。ブチ抜かれてカッとなり、手負いのまま無理して追走した挙句の惨事は想像に難くない。びっしょりになったヘルメットを脱いでほとぼりを冷ましているうちに後発のエントラント達の眩しいヘッドライトがぽつぽつとやって来た。

「エンジンが抱き付いた・・・」

てっきり追い抜かれると思ってたTDRのツワモノ氏がこう言って肩を落とす。

「あーあ・・・はよビバークへ帰り~」

と、先にゴールしていた仲間のテダレ組な方々がこう慰めた。

「そういえばMだっちはどうした?」

なんて声が聞こえてきた頃、優勝候補の筆頭と目されていた彼のKTMがすごい勢いでゴールに飛び込んできた。

「ブチやっちまったー!!」(広島弁)

ラリーらしいドラマがリアルタイムで織り成されるのを目の当たりにしてからあたりをすっかり闇が覆う頃、折れた心を脇に抱えて僕はSS13を後にした。

腿から踝まで左足がジンジンと痺れる中、ビバークでXRの整備を簡単に済ませ三つ又やトップブリッジ、アクスルシャフトのネジを緩めてからさっさとシュラフに潜り込む。知人のブログには、自分の事がこう記述されていた。

”アー失敗したとボヤきながらフテ寝”

長い夜が終わった。
明方になると、あちこちから昨晩の武勇伝が漏れ伝わってくる。結局このSSの成績は15位、だけど総合では9位のままだった。


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