コラム

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ボクはバイクで旅をするようになってからというもの、さかんに九州へ出かけた。なぜこれほどに九州に惹かれているのだろうか?と不思議に思ったものだ。25歳のころ、阿蘇山中腹にある垂玉温泉・山口旅館に泊まった。宿からすぐのところ滝湯があり、これが野趣に富んでいて風情も一層だった。もちろん混浴で眼前に滝しぶきが西陽を帯び金色に光っていた。紅葉が滝壺にかかり、若い女性客と二人で眺めた(この部分はウソ)いずれにしても「おおお、これはいいなあ」となった。山口旅館のロビーに「五足の靴」の物語が書いて掲示してあった。浴衣姿の若い女性と二人で眺めた(ここもウソ)「五足の靴」は与謝野鉄幹が木下杢太郎、北原白秋、平野万里、吉井勇と5人で九州を旅して1907年に刊行した紀行文集。ボクはクラっと来た。吉井勇は、実は薩摩藩の吉井幸輔の孫で歌人だ。とにかく酒と情痴と放蕩と退廃を愛し、それを遠慮なく歌にした。歌集『酒ほがい』は時代にインパクトを与えた。祇園のかにかくに祭りも、吉井勇をしのんで今も続いている。吉井勇記念館は高知香美猪野々にある。祖父・幸輔は西郷隆盛や大久保一蔵らと幕末を駆け抜けた。坂本龍馬とは親交深く「近江屋にいたのでは危険だから薩摩藩邸に身をひそめるように」と暗殺される数日前に勧めていたほどだ。1年前に龍馬が寺田屋事件で負傷したあとも伏見の薩摩藩邸に匿い、西郷と共に薩摩霧島妙見温泉に湯治に行くのである。まあ、そんなことも手伝って九州がとんでもなく興味深くなったし、この国の形を変えた男たちの地だというだけで心が騒いだ。彼らが記した足跡をいろいろな形で歩いたり走ったりした。鹿児島、妙見温泉、長崎、島原、牛深。だからこのラリー、まだまだルートを伸ばす先は枚挙にいとまがない。今年はダートが物足りないが、ラリー九州4デイズは、これからだから、やがて一筋縄ではいかないものにしてやろうと思う。